労働時間管理における固定残業制に関して


企業が従業員に支給する給与について、あらかじめ一定時間分の時間外労働代を、給与に含める制度のことです。過重労働や違法な残業などネガティブなイメージを抱かれてしまうこともありますが、正しく運用すれば大きなメリットがあります。

労働時間管理における固定残業制

固定残業とは、企業が従業員に支払う給与の計算根拠となる労働時間に、あらかじめ含まれている一定時間の残業=時間外労働のことです。
みなし残業制度は、この残業を含んだ労働契約です。みなし残業は「固定残業」とも呼ばれています。

普通、従業員が労働時間外に業務を行えば、企業は基本給のほかに残業代を支払います。企業がこのみなし残業制度を導入していると、一定時間内の残業代が給与に含まれているため、従業員に残業代を支払う必要がなくなるのです。ただし、あらかじめ定められた時間を超えた残業が発生した場合には、別途残業代を支払う必要があります。

ただし裁量だけでこの固定残業が決まらないように下記の事項などを区別のために記載が必要とされています。

・固定残業制が残業手当の定額払いであり、他の賃金とは区別されていること
・固定残業代に何時間分の時間外手当が含まれているか
・固定残業分の時間外労働を超える場合は、別に時間外手当を支払うこと

固定残業の導入前から働いている従業員に対しては労働条件変更通知書などで固定残業制を導入することを周知しなければいけません。
固定残業代制度は、制度の内容を人事担当者が正しく理解したうえで、従業員に理解を得て適切に運用しなくては、従業員とのトラブルになりかねません。

x固定残業導入のメリット

固定残業導入のメリットですが、固定残業導入の際は、自社にとってどのようなメリットがあるのかを十分理解する必要があります。
ここでは、固定残業導入の企業側の4つのメリットを紹介します。

企業は残業代計算などが不要になる
固定残業を導入すると、規定時間分までの残業代については計算不要です。仮に、「月20時間の固定残業を給与に含む」という規定で働く従業員が残業をした場合、残業時間が5時間でも20時間でも、支払う給与の金額は変わりません。毎月、残業代の計算をしたり、変動する残業代に伴って社会保険料や所得税の確認をしたりする必要はありません。業務の効率化が図れるという点で、大きなメリットといえるでしょう。

企業は人件費を把握しやすくなる
企業が固定残業を導入することで、残業代が固定となり、給与額の大幅な変動を抑えられます。企業の支出のうち、大きな割合を占める人件費を正確に把握できるため、経営側は事業予測や資金繰り計画を立てやすくなるメリットがあるのです。ただし、一定時間を超過した分の残業代については支払う必要があります。また、固定化された残業代によって人件費を把握しやすくはなりますが、人件費の支出総額を減らせるわけではないので注意が必要です。

企業の業務効率が上がる可能性がある
固定残業を導入すると、残業をしてもそうでなくても、従業員に支給される給与額はほぼ一定です。「生活費を稼ぐために長時間残業をしよう」と考える従業員が減り、「残業しても給与は同じだから、テキパキ仕事を終わらせて定時で帰ろう」と考える従業員が増え、結果として生産性が向上する可能性があります。従業員が集中して業務に取り組むことで良いアイディアが生まれやすくなったり、長時間労働しづらい職場に変わることで、従業員が働きやすさを感じたりする効果も期待できます。光熱費などの経費削減も見込めるでしょう。

従業員の生活が一定レベルで安定する
固定残業導入は、従業員が受け取れる給与が、一定レベルで安定するということも意味します。
「月給25万円、残業代別途支給」のA企業と「月給30万円(固定残業代30時間分を含む)」のB企業において月30時間の残業をすれば、A企業の従業員のほうが高給です。しかし、残業が減ればA企業の従業員は給与額も減っていき、B企業の従業員の給与額が上回る可能性が高くなるでしょう。

固定残業を導入すれば、従業員の給与が比較的高い金額で固定されることから、従業員の生活の安定に寄与できるのです。求人の際も、A企業の提示額は25万円、B企業は30万円と差がつくため、求職者に対するアピール度が向上するはずです。

制度を導入するためのポイント

固定残業について、従業員がどのような給与形態なのかを理解できるように、就業規則にルールを定めて明示することが必要です。
このとき、必ず行わなければいけないのが、みなし残業の時間数が何時間なのかをはっきりさせること。そして、基本給と残業代がそれぞれいくらなのか明らかにしておくことです。従業員によって具体的な金額が異なるため、計算方法を就業規則や給与規程に明記します。また、個々の従業員の給与金額についても、雇用契約書などに明記する必要があります。